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東京高等裁判所 昭和33年(ナ)3号 判決

原告 栗原義重

被告 千葉県選挙管理委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、昭和三十三年三月二十九日執行の千葉県君津郡小櫃村議会解散の投票につき原告のなした訴願に関しての被告の裁決はこれを取消す、昭和三十三年三月二十九日執行の右小櫃村議会解散の投票は全部無効とする、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、原告は千葉県君津郡小櫃村議会議員の選挙権を有するところ、右小櫃村選挙管理委員会は昭和三十二年三月二十九日同村議会解散の投票を実施した。しかしながら右投票は次の理由により無効である。すなわち(一)、右解散投票期日はその二十日前にこれを告示することを要するにも拘らず本件解散投票期日は昭和三十三年三月九日に告示せられ、従つてこの告示と同月二十九日の本件解散投票期日との間に右法定の期間を置いてないから右期日に執行された投票は無効である。次に、

(二)、右解散投票の実施に当つた前示小櫃村選挙管理委員会は委員根本亮、同小林正信、同塩谷保、補充員太田奈美、同高橋幸造、同保坂権次であり、昭和三十三年三月八日以後の議事には右太田奈美が委員に補欠されて参与している。右委員、補充員は昭和三十二年七月二十七日の同村議会において指名推選の方法により選任されたものであるが、選挙管理委員の性質上、同委員及び補充員は、議会において単記無記名自書投票を以て決定すべきであつて、指定推選の方法によつて決定すべきではない。しかのみならず根本亮が同月九日に退職した後太田奈美を委員にあてたのは不適法であり、右選挙管理委員会は構成が違法である。従つて上記選挙管理委員会によつて行われた前記投票実施の手続は違法である。このような違法な手続にもとずき執行された投票はその効力がない。原告はこの点をあげて昭和三十三年三月二十九日同村選挙管理委員会に異議を申立てたが同年四月七日右申立を却下されたので同月九日被告に対し訴願を提起した。しかるにその後二十日以上を経過した現在まだその裁決がないので本訴に及んだのである。なお根本亮の退任経過手続が被告主張のとおりであることは争わないが、根本亮は昭和三十三年三月九日の辞任届を撤回したことはないので被告の主張するような爾後の手続をすることは法律上許されないと述べた。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、原告主張の事実関係は(違法不適法との原告の見解を除き)これを認める。しかしながら地方自治法施行令第百条の二に投票期日の告示の期限として規定する「投票期日の少くとも二十日前」というのは投票期日の前日を第一日として逆算して二十日目に応当する日を指し、その日までに告示することを要する趣旨であつて、告示の日と投票期日との間に二十日を置くべきことを命じた趣旨ではない。また、地方公共団体の議会における選挙は議員中に異議がないときは指名推選の方法によることができることになつているので(地方自治法第百十八条第二項)昭和三十二年七月二十七日の小櫃村議会においては右規定に則り、原告の主張する委員、補充員が指名推選の方法によつて選任されたものであり、根本亮は辞任を申出で一旦承認されたようになつているがその手続に瑕疵があつたので改めて昭和三十三年二月十三日の委員会において辞任が承認されたものであり、委員が欠けた場合これを充たすべき補充員の順序も同時に議決せられて居り、太田奈美は第一順位に指定せられていたので委員に補欠されたものである。従つて原告主張の解散投票の手続には違法の点はなく、投票は有効であると述べた。

(各立証省略)

理由

原告が千葉県君津郡小櫃村の議会(以下村議会という)の議員選挙権を有すること、同村選挙管理委員会が昭和三十三年三月九日有権者の請求にもとずく同村議会解散の投票を同月二十九日に執行すべき旨を告示し、同日右投票の実施せられたことは当事者間に争がない。原告は、(一)、右告示と投票期日との間に法定の期間を置かないで投票が執行されたのは違法である旨を主張するから考えるのに、地方自治法施行令第百条の二第二項に投票期日は少くとも二十日前に告示しなければならないというのは、投票期日の前日を第一日として逆算して二十日目に当る日以前に告示すべきことを命じたものであつて、告示の日と投票期日との間に二十日を置くことを必要とする趣旨ではないものと解するのが相当であるから上記のように昭和三十三年三月二十九日の投票期日を同月九日に告示した本件の右手続には違法の点はないものというべく、原告のこの点の主張は理由がない。次に、(二)、原告は同村選挙管理委員会の委員、補充員を指名推選の方法により選任したのは違法である旨を主張するけれども、地方自治法第百十八条第二項によれば地方公共団体の議会において行う選挙については議会は議員中に異議がないときは指名推選の方法により選任することができることが明であり、右委員、補充員並にその順位を右の方法によつてされたことにつき異議のあつたことが認められない本件においては右選任手続には違法の点はなく、この点の原告の主張も採用することはできない。なお根本亮の辞任届につき被告主張のような経過をたどり任辞が承認されたことについては当事者間に争がなく、この事実によれば初の承認に瑕疵がありこれを取消し改めて適法に承認されたものと解せられるのであつて別に違法の点は認められない。また補充員三名については予め順位が定められ、太田奈美がその第一順位者であつたことについて原告は明らかに争わず、原告提出の準備書面中には原告自らその旨を記載しているのであるから根本亮の退任のあとに太田奈美をあてたことは違法ではない。従つて小櫃村選挙管理委員会の構成が違法であつたことを前提とする原告の主張も理由がない。しからば上記投票を無効とする趣旨の原告の本訴請求は失当たるを免れないからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決をする。

(裁判官 梶村敏樹 岡崎隆 堀田繁勝)

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